Suemori Toru
哀原-27 アクリル・ミクストメディア
末盛 徹展
1999.1.4(月)〜16(土)
(AM11:00〜PM7:00 最終日PM4:00)
哀原(あいはら) 1998 84x60cm
T-BOX LETTER No.40
「哀原」に立ちすくむ
最初の個展から数えると、もう5回目になった。 今までは、末盛徹自身の
過去を振り返りながらの制作だった。 回を重ねるごとに、末盛徹の過去の証
がどんどん無くなっていく。 作品に沈んでいた澱(おり)のような物もいつ
の間にかほとんど消えた。 彼にとって重要であったと思われる物が落ちてい
った。 有ったとしてもそれは、今の彼に於いて、さして重要な物ではなくなり
つつある。
画面は、紙の上に薄くアクリルの絵の具だけが乗っている。 残滓が消え落
ち平らな面が浮かんできた。 その新しい画面に現れたのは細い線である。
「線」・・・それは彼が創造しようとするものの象徴となって現われた。 そ
の線は、彼自身から解放されることなのであろう。 己自身からの解放は周り
の人の力が使え、力を貰(もら)える事である。 他人のために、彼が何かを
しなければとの思いが線になっている。
描かれた線は確信を持って引かれたものではない。 が、他者はどうなのか
と眼が開き始め、他人の方向に眼が向いた瞬間なのであろう。 初めの一歩で
ある。 今までの4回の個展は、その一歩のための準備の時間だったのであろ
う。 彼を取りまく環境がそうしたか、彼自身が変わってそうなったかは判ら
ない。 ただ変わったのは確かである。
ひとまず、末盛徹が過去の世界を脇に置いた時、新しい別の世界が広がった。
新しい土地に立ち、自由に創造出来るのである。 これからが彼の創造の始
まりである。 そして今は、「哀原」にひとり立ちすくんでいるが、彼の中に
自然と力が漲(みなぎ)ってくるに違いない。
(高橋盛夫)
末盛 徹(Suemori Toru)