Yukio Nonomiya Solo Exhibition
Silkscreen Print Works


211101B

野々宮幸雄 展

「陰影」

[SpaceB]

2021年11月1日(月)〜11月6日(土)
(11:00〜19:00)
(最終日は16:00まで)


211101B-2
「陰影2052」
(紙にシルクスクリーン版画)
26×37㎝
【¥50,000】(額付)


211101B-3
「陰影2042」
(紙にシルクスクリーン版画)
31×44㎝
【¥60,000】(額付)


211101B-4
(リボンインスタレーション)



「 陰 影 」 野々宮 幸雄

1.私はかつて美学校という特異な学校で、刷師の先生からシルクスクリーンを習いました。この学校では教師と学生がかなり密接に関わり、師が身を以て会得し開発した制作法や技術の全てを仔細に伝授してくれました。カリキュラムにそって教科書的な解説をするという講義ではなく、作業の場面場面で適切に手取り足取りの直接指導をする、言わば口伝のようなものでした。
それは職人の師弟関係のようでもあり、私は版画への職人的こだわりを学びました。職人的こだわりとは、[制作の段取り][作業の技術と作法][用具や用紙]それらに対して誠実に合理的に向き合うという事です。以来自分の中に職人的部分と作家の部分を同時に持って、作品制作に臨んでいます。
シルクスクリーンを習い始めてより長きに渡り、この版画の中に創作の手掛かりを見つけて形にしたいと探究を続けて来ました。慣れ親しみ研ぎ澄まして身に付けた、シルクスクリーンの技を頼りに制作し続けた版画作品、その行き着いたところが「陰影」のシリーズです。地道な作業の繰り返し、積み重ねた手作業による産物です。

2.「陰影」を前にしてまず見えて来るものは、淡く微妙に変化する色彩、段階的に変化する色彩。
そして単純な直線分割、それとわずかな四角形これだけです。絵を削ぎ落とすように、描写する物体や人物、物語や風景を排除してぎりぎり残った色彩そのものや止まったシンプルな形による絵画。それは光を感じさせる色、透明でふわふわ包み込まれるような色であり、ゆるやかな時間と広がる空間の中に身を置く心地を体感させるものです。
 作品はシルクスクリーンの技法による、ぼかし刷り(グラデーション)を用いて画面のイメージを作ります。端よりタテ細ラインをぼかしをかけながら一本ずつ刷って行き、順番に明度を段階的に変えてストライプ状に連ねると、透明感のある面が立ち上がります。僅かな凹凸感をつくり半透明な奥行きを持つ柔らかな色面となり、光と陰りを放ちなだらかな湾曲を感じさせたりもする。
ぼかし刷りはスクリーン上に色のインクと透明メディウムを乗せて、スキージで前後に動かしながら混ぜて滑らかにきれいなグラデーションを作った後に刷ります。細いライン状に安定してぼかしを刷るには、細心の注意と緊張感が必要です。スキージのエッジの感触を感じながら、10本の指先でコントロールして一定の速度と印圧を保ちスキージを引くと、インクはスクリーンの紗を透過し極薄の膜となり紙の表面にふわりと降りる、そんなイメージで刷っています。
 そして、ぼかしラインのベース面の上にさらに半透明のヴェールを何層か重ね、四角い形を間合いを測りながらいくつか配置すると、画面の表情が決まります。

3.私の作品では色が重要な要素であり、面色(めんしょく)のような色空間を作りたいと思っています。面色とは空の色のように距離の印象が不確定で、面の感じだが柔らかく厚みも感じられる色のことです。ぼかしを用いるのはその面色の実現であり、眼にはじめて体験するような情景を幻出させたいのです。ぼかしのかかった色はその位置を不確定にします。また色の透明性は物質感や重力から解放し、浮遊感を感じさせもします。

 暗から明へ、明から暗へと濃淡のうつろう陰影の光景。無辺に広がる「陰影」の中に、精神の有り様を、生きるかたちや気配を探し求めるとしたら…。


野々宮幸雄 (Nonomiya Yukio)



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